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福岡家庭裁判所直方支部 昭和51年(家)260号 審判 1976年10月06日

申立人 三浦エツコ(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

(申立の趣旨及び実情)

本件申立の趣旨は、「申立人の氏(三浦)を(原口)と変更することを許可する」旨の審判を求めるというのであり、その実情とするところは次のとおりである。

1  申立人は昭和五一年八月四日夫三浦信幸と協議離婚届出をするに当り戸籍法七七条の二の届出をして三浦エツコの戸籍を編成した。

2  しかし離婚した夫三浦信幸から自分の氏を称するのはけしからぬといつてしばしば異議を述べられて煩わしいので、同籍の子供達の同意を得て婚姻前の原口の氏を名のりたいので本件申立に及んだ。

なお同籍者は長男幸司(昭和三〇年一〇月五日生)二男学(昭和三五年九月六日生)、長女恵子(昭和三七年一一月二三日生)の三人である。

(裁判所の判断)

記録及び調査の結果によると、申立人は昭和五一年八月四日夫三浦信幸と協議離婚届出をし、同日戸籍法七七条の二の届出をして離婚の際称していた三浦の氏を名乗ることとし、三浦エツコの戸籍が編成され、同月一三日上記三人の子が母の氏を称する入籍により同戸籍に入ったこと、上記三浦の氏を名乗ることは子供達の希望でもあつたこと、ところが別れた夫三浦信幸が度々申立人方を訪れては「自分の氏を使うな、婚姻前の(原口)姓にかえろ」などと文句を言つて申立人らを困惑させていることが認められる。

よつて検討するに、昭和五一年法律六六号民法等の一部を改正する法律一条により民法七六七条に改正が加えられ、婚姻によつて氏を改めた夫又は妻は離婚によつて婚姻前の氏に復するのが原則であるが、離婚の日から三箇月以内に戸籍法に定める届出をすれば離婚の際に称していた氏を称することもできるようになつた。したがつて申立人が、戸籍法七七条の二の届出をすることにより離婚の際称していた「三浦」の氏を呼称することとしたのは、いわば同人の権利を行使したものであり、離婚した夫信幸がこれに対して異議を唱えて申立人らを困らすのは不当な行為であるというべきである。そうすると上記のような異議を述べられるのが煩雑であるからという理由だけでは、氏の変更についての必要やむを得ない事由があると認めることはできない。

よつて本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 緒方誠哉)

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